PFI事業で、新エネルギー施設を構築する
[改正PFI法で可能になった民間企業による自治体へのインフラ事業の提案]
・改正PFI法の下では、道路、鉄道、港湾、空港、水道、下水道などのインフラ事業について、自治体は民間企業に対して10年〜20年といった年限にわたる特別な営業許可(コンセッション)を与えて、経営を委ねることができる。コンセッションの下で民間企業は料金設定の自由を持つなど、インフラ事業を採算に乗せやすくなる。(例:空港事業で従来はなかった新しい収益源を設定することができるなど。)
・改正PFI法の対象になっている事業(施設)には、熱併給施設、新エネルギー施設が含まれる(正確には旧法時代から含まれていた)。また関連する領域に、公営住宅、賃貸住宅、廃棄物処理施設、リサイクル施設などがある。
・同法の下では、民間企業は自治体に対して新しいインフラ事業の企画を提案することができる。自治体は民間企業から持ち込まれた企画を検討する義務がある。
・これらのことから、改正PFI法の下で、民間企業が10年〜20年といった年限にわたってコンセッションを得て営業を行う太陽光発電施設、風力発電施設、バイオマス発電施設などの提案書を作成し、自治体に提出して検討を依頼することができる。
[固定価格買取制度と改正PFI法を組み合わせて採算性を向上させる]
・固定買取価格制度により、太陽光発電のコストの大半は買取価格によって相殺される。しかしそのままでは利益が出にくい可能性がある。(単価の安い発電パネルが調達できれば話は別。)
・採算性を向上させるには、初期コストで大きな割合を占める可能性のある用地取得費用を低く抑えることが不可欠。
・そこで、改正PFI法の下で自治体に提案する太陽光発電事業提案書において、その自治体が保有する遊休地を無償で活用させてもらうスキームについて提案するという方策が浮上する。
・用地取得コストがゼロで済むならば、事業の投資回収はよりたやすくなる。また、用地の所有者は自治体であるため、固定資産税の負担も免れる。
[再生可能エネルギー事業にプロジェクトファイナンスによって融資する側の視点]
・プロジェクトファイナンスの融資が成立するには、その事業が生むキャッシュフローが安定していることが大前提。固定価格買取制度の下では、太陽光発電事業の収益は比較的読みやすく、融資可能な金額の割り出しも比較的たやすい。
・用地取得コストがゼロであるなら、それに対する融資も不要になり、全体としては融資額を圧縮できる。すなわち、債権回収がより容易な案件となり、貸出がしやすい。
[再生可能エネルギー発電事業の提案を受ける自治体の首長の視点]
・原発事故以降、地域における再生可能エネルギーへの取り組みの気運が高まっており、個々の自治体においても何らかの方策を打ち出したいところ。
・従来、一部の地方自治体では、地方公営企業法の下で電力事業(=発電事業)に取り組んできた歴史がある。現在25都道府県1市に26の事業体があり、水力を中心に296の発電所、総発電容量246万kW(原子力発電所2.5基分)が稼働している。
・自らの負担で地方公営企業として電力事業を営むことは財政面で無理がある。改正PFI法の下で、民間の資金により太陽光発電、風力発電、バイオマス発電などを行うことには大きな意義がある。
(・以前に造成したが、入居が進んでいない工業団地用地がある。必要であればその用地を提供したい。)
・提案をしてくれる民間企業があれば、積極的に検討したい。
おおむねこのような状況となっています。
話がわかりやすいので、太陽光発電を例として書きましたが、固定価格買取制度の対象となっている風力発電、地熱発電、バイオマス発電、中小水力発電(3万kW以下)でもほぼ似た状況にあります。
■最初の1〜2年が山場
さて。インフラ事業の環境としてみると、事業で発生する収益が国の買取制度によって長期にわたって保証されているという環境は、きわめて異例とも言うべき事業環境です。
インフラ事業の成否を決定づけるものに、そこにプロジェクトファイナンスの融資が認められるか否か(バンカブルであるかどうか)ということがあります。一般的に初期費用の7〜8割程度はプロジェクトファイナンスでまかなわれますから、これが実行されるかされないかで、事業主体側の資金調達の難度はまったく変わってきます。
固定価格買取制度の下では、長期にわたって一定水準の売上が読めるということが、他のインフラ案件とは決定的に違う要素であり、バンカリビリティが格段に向上します。この事業環境は銀行にとっても、好案件が多数出現する可能性があるということで非常に大きな意味を持っています。
これらのことから、再生可能エネルギー特措法が成立して固定価格買取制度が動き出せば、おそらくは、民間企業から地方自治体に対する猛烈な提案合戦が始まるものと推察されます。周知のように、その一部は、すでにソフトバンクの孫さんによって始まっているわけですね。
また、自治体の首長自らが関連分野のリーダー企業に働きかけて、再生可能エネルギー発電所を誘致する動きも始まるでしょう。これについても、すでに新聞で報じられていますね。
プロジェクトファイナンスのノウハウを持つメガバンクなどでも、すでに準備を開始しているものと思われます。
また、この動きが大きなうねりとなると、日本で成立しにくかったインフラファンドがいくつも成立する可能性が出てきます。個別の再生可能エネルギー発電事業案件に対して事業立ち上げ当初に投資することにより、手堅いリターンが獲得できる可能性があるからです。国内案件であるため、これまで海外案件のインフラ投資には尻込みしてきた年金や保険などの機関投資家も資金を拠出しやすいでしょう。
猛烈な投資ラッシュが起こったスペインなどの動きを見ると、最初の1〜2年が山場となるはずです。固定価格制度は、年を追うごとに価格を下げるのが制度の常識ですから(初期参入者を優遇し、再生可能エネルギー導入に加速がつくようにするため)、後から参入する場合は不利になるからです。
太陽光パネル施設費用は、3年前と現在では概ね50%以下となっている。遊休地借地費用を自治体が当然負担すれば、7年〜8年程度でこのプロジェクトは償却可能である。又、蓄電池併用施設にすれば、災害時での非常用電源施設としても有効に作用する。助成金も含めたプロジェクトファイナンスは、自治体、金融保険機関、建設事業者等にWinーWinの関係が構築される。
今泉 大輔 Report on Japan's infrastructure topic on weekend. 2011.07.19によるレポートを編集。
[改正PFI法で可能になった民間企業による自治体へのインフラ事業の提案]
・改正PFI法の下では、道路、鉄道、港湾、空港、水道、下水道などのインフラ事業について、自治体は民間企業に対して10年〜20年といった年限にわたる特別な営業許可(コンセッション)を与えて、経営を委ねることができる。コンセッションの下で民間企業は料金設定の自由を持つなど、インフラ事業を採算に乗せやすくなる。(例:空港事業で従来はなかった新しい収益源を設定することができるなど。)
・改正PFI法の対象になっている事業(施設)には、熱併給施設、新エネルギー施設が含まれる(正確には旧法時代から含まれていた)。また関連する領域に、公営住宅、賃貸住宅、廃棄物処理施設、リサイクル施設などがある。
・同法の下では、民間企業は自治体に対して新しいインフラ事業の企画を提案することができる。自治体は民間企業から持ち込まれた企画を検討する義務がある。
・これらのことから、改正PFI法の下で、民間企業が10年〜20年といった年限にわたってコンセッションを得て営業を行う太陽光発電施設、風力発電施設、バイオマス発電施設などの提案書を作成し、自治体に提出して検討を依頼することができる。
[固定価格買取制度と改正PFI法を組み合わせて採算性を向上させる]
・固定買取価格制度により、太陽光発電のコストの大半は買取価格によって相殺される。しかしそのままでは利益が出にくい可能性がある。(単価の安い発電パネルが調達できれば話は別。)
・採算性を向上させるには、初期コストで大きな割合を占める可能性のある用地取得費用を低く抑えることが不可欠。
・そこで、改正PFI法の下で自治体に提案する太陽光発電事業提案書において、その自治体が保有する遊休地を無償で活用させてもらうスキームについて提案するという方策が浮上する。
・用地取得コストがゼロで済むならば、事業の投資回収はよりたやすくなる。また、用地の所有者は自治体であるため、固定資産税の負担も免れる。
[再生可能エネルギー事業にプロジェクトファイナンスによって融資する側の視点]
・プロジェクトファイナンスの融資が成立するには、その事業が生むキャッシュフローが安定していることが大前提。固定価格買取制度の下では、太陽光発電事業の収益は比較的読みやすく、融資可能な金額の割り出しも比較的たやすい。
・用地取得コストがゼロであるなら、それに対する融資も不要になり、全体としては融資額を圧縮できる。すなわち、債権回収がより容易な案件となり、貸出がしやすい。
[再生可能エネルギー発電事業の提案を受ける自治体の首長の視点]
・原発事故以降、地域における再生可能エネルギーへの取り組みの気運が高まっており、個々の自治体においても何らかの方策を打ち出したいところ。
・従来、一部の地方自治体では、地方公営企業法の下で電力事業(=発電事業)に取り組んできた歴史がある。現在25都道府県1市に26の事業体があり、水力を中心に296の発電所、総発電容量246万kW(原子力発電所2.5基分)が稼働している。
・自らの負担で地方公営企業として電力事業を営むことは財政面で無理がある。改正PFI法の下で、民間の資金により太陽光発電、風力発電、バイオマス発電などを行うことには大きな意義がある。
(・以前に造成したが、入居が進んでいない工業団地用地がある。必要であればその用地を提供したい。)
・提案をしてくれる民間企業があれば、積極的に検討したい。
おおむねこのような状況となっています。
話がわかりやすいので、太陽光発電を例として書きましたが、固定価格買取制度の対象となっている風力発電、地熱発電、バイオマス発電、中小水力発電(3万kW以下)でもほぼ似た状況にあります。
■最初の1〜2年が山場
さて。インフラ事業の環境としてみると、事業で発生する収益が国の買取制度によって長期にわたって保証されているという環境は、きわめて異例とも言うべき事業環境です。
インフラ事業の成否を決定づけるものに、そこにプロジェクトファイナンスの融資が認められるか否か(バンカブルであるかどうか)ということがあります。一般的に初期費用の7〜8割程度はプロジェクトファイナンスでまかなわれますから、これが実行されるかされないかで、事業主体側の資金調達の難度はまったく変わってきます。
固定価格買取制度の下では、長期にわたって一定水準の売上が読めるということが、他のインフラ案件とは決定的に違う要素であり、バンカリビリティが格段に向上します。この事業環境は銀行にとっても、好案件が多数出現する可能性があるということで非常に大きな意味を持っています。
これらのことから、再生可能エネルギー特措法が成立して固定価格買取制度が動き出せば、おそらくは、民間企業から地方自治体に対する猛烈な提案合戦が始まるものと推察されます。周知のように、その一部は、すでにソフトバンクの孫さんによって始まっているわけですね。
また、自治体の首長自らが関連分野のリーダー企業に働きかけて、再生可能エネルギー発電所を誘致する動きも始まるでしょう。これについても、すでに新聞で報じられていますね。
プロジェクトファイナンスのノウハウを持つメガバンクなどでも、すでに準備を開始しているものと思われます。
また、この動きが大きなうねりとなると、日本で成立しにくかったインフラファンドがいくつも成立する可能性が出てきます。個別の再生可能エネルギー発電事業案件に対して事業立ち上げ当初に投資することにより、手堅いリターンが獲得できる可能性があるからです。国内案件であるため、これまで海外案件のインフラ投資には尻込みしてきた年金や保険などの機関投資家も資金を拠出しやすいでしょう。
猛烈な投資ラッシュが起こったスペインなどの動きを見ると、最初の1〜2年が山場となるはずです。固定価格制度は、年を追うごとに価格を下げるのが制度の常識ですから(初期参入者を優遇し、再生可能エネルギー導入に加速がつくようにするため)、後から参入する場合は不利になるからです。
太陽光パネル施設費用は、3年前と現在では概ね50%以下となっている。遊休地借地費用を自治体が当然負担すれば、7年〜8年程度でこのプロジェクトは償却可能である。又、蓄電池併用施設にすれば、災害時での非常用電源施設としても有効に作用する。助成金も含めたプロジェクトファイナンスは、自治体、金融保険機関、建設事業者等にWinーWinの関係が構築される。
今泉 大輔 Report on Japan's infrastructure topic on weekend. 2011.07.19によるレポートを編集。